Where Comfort Meets Adventure
About
New Material Concepts with Hybrid Functionality
ハイブリッドな機能が、新しい快適と日常をつくる
コットンやシルクなどの天然繊維が心地よいと感じるのは、繊維がもつ吸湿と放湿の機能のため。しかし汗をかくと乾きが遅く、着心地も悪くなってしまう。アクティブなシーンで速乾性のある化合繊維が活躍するのはそのためです。そこでGOLDWINが目指したのは、天然繊維(吸放湿性)と化合繊維(吸汗速乾性)の機能を高水準でともに満たすこと。それがNATUREBRID(ネイチャーブリッド)。日常からスポーツまでをシームレスにつなぐ新しい高機能素材です。
Process
How Do We Define Comfort in “NATUREBRID”?
快適さを定義することはできるのか
GOLDWIN TECH LAB。2017年に富山県小矢部市で開設された研究開発拠点です。ゴールドウインの創業の地でもあるこの施設で、わたしたちは先進的なものづくりを加速させてきました。企画開発を担った平山壮一は、この素材が生まれた経緯についてこのように話します。「着想のきっかけになったのは、パンデミックによってリモートワークが余儀なくされたことでした。3年前のことです。素材開発を担うチームの中で、部屋では何を着るかが話題となり、みなが天然繊維、つまりコットン素材を身につけてしまうことがわかったんです。何気なく手にとってしまうよね、と」。
ゴールドウインはさまざまな機能的なスポーツウェアを開発し、着心地においても多くの配慮をしてきました。しかしそれは多くの場合、大量の汗をともなうようなアクティブなスポーツシーンが想定されています。そのため生地の機能として優先されるのは吸汗速乾性。肌にまとわりつく汗をいかに素早く吸収し、いかに素早く乾かせるかという性能が問われ、ポリエステルやナイロンなどの化合繊維の優れた特徴でもあります。しかし日常生活では、それほど大量な汗をかくことはありません。むしろ肌から放出される熱や湿気をいかにコントロールするかが着心地につながる。そして、コットンなどの天然繊維には吸放湿性という機能がそもそも備わっています。
「素材を開発するチーム内に、衣服内環境による快適性を検討していくグループがあります。そこでわたしたちは、吸放湿性をもった繊維による快適さに改めて注目することになりました。部屋で何気なくコットンのTシャツを着てしまうのは、それが快適だということを身体が知っているからです。そして天然繊維の特徴は衣服内の湿度をコントロールできる。その上で、スポーツウェアのような吸汗速乾性にも優れた素材になれば、新しい快適さを定義できると考えたのです」。平山を中心にしたプロジェクトはこうしてスタートしました。
Development
New Materials That Control Humidity and Dryness
ハイブリッドな機能性を数値化する
サラッとした着心地。わたしたちはウェアの快適さをこのように形容することがあります。
その「サラッと」という肌触りの裏付けとなる機能のひとつが、どうやら吸放湿性にある。「それを可能にする素材として天然繊維と向き合う必要がありました」。平山は話します。
「わたしは素材の開発を担うようになって10年ほどで、そのほとんどはスポーツウェアの基礎となる化合繊維と向き合ってきました。でも天然繊維がもつ性質にはずっと魅力を感じていましたし、今回はそれを機能として確かなものとするために、基準を必要としたのです」
ΔMR(デルタエムアール)。これが今回の開発にあたって定められた吸放湿性の数値です。特定の環境下での空気中の水分の吸収量と放出量を検査して算出されるもので、数値が高いほどに性能が高く、コットンは3.2程度、ウールは4、そしてポリエステルは0に近い数値となるといわれています。つまり湿度をコントロールする機能はほとんどコットンと同等です。
「これまでゴールドウインでは機能性をチェックするために、さまざまな指標が定められていましたが、これは今回のために新たに定めたものです。そのうえで吸汗速乾性については、従来から使用している指標でコットンとポリエステルのちょうど間くらいの性能、つまり従来の天然繊維より高い速乾性を目指しました」
かくして誕生した新素材がNATUREBRIDです。天然繊維(NATURE)ならではの性質を生かしながら、スポーツウェアに由来する先進的な技術やアイデアを掛け合わせる(HYBRID)。確かに、際立つような高機能性ではなく、どちらかといえば中庸的です。しかし、この素材によってわたしたちは間違いなく「新しい快適さ」を手に入れ、それはつまり日常からスポーツシーンまでのつながりをより豊かにするはず。最後に、この先の展望を平山が語ります。
「今回はコットンを基礎としてその機能を定義し、さらに速乾性という化合繊維ならではの性質を掛け合わせていきました。しかし方法はほかにもあります。例えばポリエステルやナイロンに天然繊維の性質を加えていくことも考えられるし、強度や撥水性などコットンに掛け合わせられる機能もさまざま想像できます。つまりNATUREBRIDはこれまでにないアプローチでハイブリッドな素材を生み出していくプロジェクトなのです」